個人事業主として新たな事業のステージへ引っ越しを考えたとき、「この引っ越し費用は経費にできるのか?」と悩む方は多いのではないでしょうか。
うっかり経費にできない出費まで処理してしまうと、後々の税務調査でトラブルになることもあります。
本記事では、個人事業主として引っ越しをする際、どのような費用が経費になり、どのような条件や注意点があるのかをわかりやすく解説します。
「個人事業主の引っ越し費用の経費処理」について、正しい知識と安心感を得たい方は、ぜひ続きをご覧ください。
個人事業主の引っ越し費用が経費になるケースと判断基準

個人事業主が事業を行う上で引っ越しをする場合、その費用が経費になるかどうかは重要なポイントです。
事業活動と直接関係のある引っ越し費用であれば経費として認められる場合がありますが、すべての引っ越し費用が対象になるわけではありません。
どのようなケースで経費対応が可能か、判断基準をしっかり理解しておきましょう。
事業用としての引っ越しの必要性
引っ越し費用を経費に計上するためには、まず事業用の必要性が認められることが前提です。
たとえば、事業拡大のために広い事務所へ移転する場合や、事業所の立地をより集客に有利な場所へ変えるといった理由が該当します。
単なる生活拠点の移動や家族の事情による引っ越しは、事業用途とはみなされません。
事業の成長や効率化など、明確な事業目的が必要です。
経費計上が認められる具体的なケース
引っ越し費用が経費として認められるのは、以下のようなケースです。
- 事業専用の事務所を借りていて、その事務所を移転する場合
- 新規開業で事業用スペースを確保するための引っ越し
- 事業形態の変更や拡大に伴う拠点の移動
- 自宅兼事務所で、業務効率化のためにより適した場所へ移転するケース(事業占有部分が明確な場合)
また、経費にできる具体的な費目には、下記のようなものが含まれます。
費用項目 | 経費計上の可否 |
---|---|
引っ越し業者への支払い | 〇 |
不動産仲介手数料(事務所用) | 〇 |
新事務所への設備・什器の運搬費 | 〇 |
個人の生活家具の運搬費 | × |
経費計上が認められないケース
反対に、下記のような場合は引っ越し費用を経費にすることはできません。
- 完全にプライベートな理由(家族の都合や住環境の変化のみ)での引っ越し
- 自宅の住居部分の移転のみで、事業活動に全く関係がない場合
- 家族の家具・私物の運搬費
- 休業中や一時的な帰郷に伴う転居
事業との明確な関連が証明できないと、税務署に経費として認められませんので注意しましょう。
自宅兼事務所の場合の按分計算
自宅スペースの一部を事務所として使っている場合、引っ越し費用の全額を経費にすることはできません。
その場合は「事業使用割合」に応じて費用を按分する必要があります。
たとえば全体の40%が事務所スペースとして使われている場合、引っ越し関連の経費も40%まで経費計上が可能です。
按分の方法としては、床面積や使用時間など、合理的な基準に基づいて算出すると良いでしょう。
税務署への説明責任と証拠書類の重要性
経費計上を行う際は、なぜその引っ越しが事業に必要だったのかを説明できるようにしておくことが大切です。
引っ越し業者の請求書や領収書、契約書類、不動産の賃貸契約書など、証拠となる書類は必ず保管してください。
後で税務調査があった場合、これらの証拠がないと経費否認のリスクが高まります。
また、事業のための引っ越しであることをメモ等でも記録しておくと安心です。
経費計上時の実務上の注意点
引っ越し費用を経費に計上する際は、事象ごとに適切な勘定科目を選ぶことも大切です。
通常は「荷造運賃」「支払手数料」「地代家賃」「消耗品費」などが考えられますが、費用の内容によって分けましょう。
自宅兼事務所の場合の按分資料や、経費に計上した理由の説明書きを残しておくことで、トラブル回避に役立ちます。
また、プライベートな費用と事業経費を明確に分け、混在しないよう普段から整理しておくことが重要です。
個人事業主の引っ越しで経費計上できる費用明細

個人事業主が事業用の理由で引っ越しを行う場合は、引っ越しにかかる様々な費用を経費として計上することができます。
どの費用が経費として認められるかを正しく把握しておくことで、適切な経理処理ができ、節税対策にもつなげることができます。
経費計上のポイントや具体的な費用ごとの扱いを確認しておきましょう。
引っ越し業者への支払い
引っ越し業者に支払う料金は、事業のために事務所や店舗などを移転する場合、全額を経費として計上できます。
引っ越し料金には、荷物の運搬費、人件費、梱包資材など様々な費用が含まれているため、領収書や明細書をしっかり保存することが大切です。
ただし、住居兼事務所の場合は、事業で使用する面積や用途に応じて、家事按分して計上する必要があります。
- 事業専用の事務所や店舗は全額経費
- 自宅兼事務所は使用割合に応じて経費算入
- 領収書や契約書を保存する
仲介手数料
不動産会社に支払う仲介手数料も、事業用に事務所や店舗を借りる場合は経費となります。
この費用は一時的に発生するものであり、物件契約時に支払った金額分を、その年の経費として計上できます。
自宅兼事務所の場合は、事業で使う部分の割合に応じて家事按分しましょう。
用途 | 経費計上方法 |
---|---|
事務所専用 | 全額経費 |
自宅兼事務所 | 按分した分だけ経費 |
敷金・礼金
敷金は原則として資産計上され、退去時に返還される性質のため、経費とはなりません。
一方で、礼金は返還されないため、全額を経費として計上することができます。
自宅兼事務所の場合は、家事按分を適用し、事業で使用する割合に応じて計上が必要です。
火災保険料
事務所や店舗の賃貸契約時に加入する火災保険料も、事業上必要な経費として認められます。
自宅兼事務所では、居住用スペースと事業用スペースの割合に応じて家事按分を行いましょう。
保険契約書や領収書は、経費計上の証明となるため必ず保管してください。
カギ交換費用
新たに事務所や店舗を借りた際のカギ交換費用も、事業上必要な支出として経費に算入できます。
セキュリティ強化や安全確保のための費用は認められていますので、支払いの証憑をきちんと保管しましょう。
自宅兼事務所の場合は、事業用途分のみ按分して経費にすることが基本です。
備品・大型不用品の処分代
引っ越しの際に発生する、事務所や店舗で使っていた備品や大型不用品の処分費用も経費にできます。
ただし、家庭用のものと混在している場合は、事業で使用していた分のみが対象となります。
処分業者から発行される領収書や内訳書は必ず保存しておきましょう。
移動や下見の交通費
引っ越し先の物件を下見に行く際や、引っ越し当日の移動にかかる交通費も経費として計上可能です。
主な交通手段には、電車、バス、タクシーなどがあります。
自家用車を使用した場合はガソリン代や駐車場代も含めることができますが、プライベート利用分は除外する必要があります。
個人事業主の引っ越し費用で経費にできない支出

個人事業主が引っ越しをする場合、その費用のすべてが経費として認められるわけではありません。
経費計上には明確な条件が存在しており、対象外となる支出も多くあるため注意が必要です。
ここでは、特に経費に出来ない典型的な項目について解説します。
生活のためだけの引っ越し費用
個人事業主が仕事と関係なく、生活の利便性や家族の事情など事業に無関係な理由で引っ越した場合、その費用は経費にできません。
たとえば通勤距離を短くしたい、住環境をよくしたい、といった私的な理由での引っ越しは事業のための支出とは認められません。
- 通勤時間短縮を目的にした引っ越し
- 子どもの学校のための引っ越し
- 家賃が安いところへ移るだけの場合
このようなケースは、たとえ個人事業主であっても全額が経費にできるわけではありません。
家族の住居スペースに関する費用
仕事とプライベートを兼ねた住居に引っ越す場合、家族が使用する部分の費用は経費として認められません。
事務所と居住スペースが一体の場合には、専有面積などで按分計算する必要があります。
スペースの用途 | 経費参入の可否 |
---|---|
事業専用スペース | ○ |
家族居住スペース | × |
共有スペース | 按分計算 |
家族全員のプライベートな生活を主目的とした引っ越しやその費用は、事業経費には含められません。
敷金のうち返還される分
賃貸物件に引っ越す場合に支払う敷金のうち、解約時に返還が見込まれる部分は経費として計上できません。
敷金のうち、原状回復費用などで返還されない金額のみが経費扱いとなります。
また、全額返金される場合や返還される可能性が高い場合は、その支出は一時的な預り金として取り扱われます。
新居の家具・生活家電購入費用
引っ越しを機に新しい家具や生活家電を購入した場合、そのほとんどはプライベート用途とみなされ経費になりません。
業務専用として使用し理由が明確な場合を除き、私生活に関わる家具・家電は経費対象外です。
経費として認められるのは、オフィス用の机や業務専用の機器など、事業利用が明確なものに限られます。
経費計上する際の勘定科目の選び方

個人事業主が引っ越し費用を経費計上する際は、正しい勘定科目を選ぶことが大切です。
引っ越しの内容や支出の目的によって、該当する勘定科目が変わります。
ここでは代表的な勘定科目の選び方について解説します。
荷造運賃
引っ越し業者への支払いは、一般的に「荷造運賃」で処理します。
荷造運賃とは、商品・備品などを運搬した際の費用に対して使う勘定科目です。
事務所や店舗の移転にともなう家具や備品の運送料もここで計上できます。
- 引っ越し業者の利用料金
- 荷造り用の箱や梱包材代
- 家具・備品の配送料
ただし、私的な荷物の運搬は経費にできないので注意しましょう。
地代家賃
新しい事務所や店舗の家賃、敷金・礼金は「地代家賃」で経理します。
地代家賃科目は、事業のために使用する建物や土地の賃借料に該当します。
1ヶ月分以上前払いする場合にも、この勘定科目を利用します。
対象となる支出 | 計上の例 |
---|---|
新事務所の家賃 | 毎月の家賃支払い |
敷金・礼金 | 契約時の一時金 |
保証金 | 契約期間中の預かり金 |
住居兼事務所の場合は、按分計算をして事業分のみ計上しましょう。
支払手数料
引っ越しに関連して発生する仲介手数料などは「支払手数料」で処理します。
不動産会社に支払う仲介料や、新しい事務所の契約にかかる各種手数料がここに該当します。
また、引っ越し費用の一部として手数料や事務手続き費用が発生した場合もこの科目を使えます。
請求書や領収書に「手数料」や「仲介」と記載されていれば、迷わずこの科目を選ぶと安心です。
消耗品費・修繕費
新しい事務所の引っ越しの際に購入した消耗品や、小規模な修繕費用は「消耗品費」または「修繕費」として計上できます。
備品の組み立てに必要な工具や、カーテン・照明など消耗品の購入費が消耗品費です。
壁や床の簡単なリフォーム、設備の修繕工事などは修繕費で処理します。
それぞれの違いをまとめると以下の通りです。
- 消耗品費…購入額が10万円未満、消耗品や備品
- 修繕費…施設や備品の修理・補修にかかる費用
高額な設備投資や資本的支出は、固定資産として処理する場合もあるので注意しましょう。
個人事業主が引っ越しの経費計上時に直面しやすい課題

個人事業主が引っ越しを経費として計上する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。
自宅兼事務所での引っ越しや業務用スペースの移転など、業務とプライベートの線引きが難しいことが多いです。
経費計上を適切に行うことで税務リスクを減らし、正しい申告に繋げることが重要です。
按分割合の決め方
引っ越し費用を経費にする場合、仕事とプライベートの利用割合を決めて按分する必要があります。
自宅兼事務所として利用している場合、家全体のうち仕事に使っているスペースや時間から按分割合を算出します。
主な按分方法としては、面積比や使用時間比などがあります。
- 面積で按分:事業に使っている部屋の面積/自宅全体の面積
- 時間で按分:事業に利用している時間/1日の総時間
- 両方を組み合わせて計算する例もあります
自分の事業形態に合った按分方法を選び、記録として残しておくと安心です。
領収書・契約書の保管方法
引っ越しにかかった費用を経費にするためには、領収書や契約書をきちんと保管することが大切です。
紙のまま保存する場合は、支出日や用途がわかるようにファイルでまとめておきましょう。
電子データの場合は、パソコンの専用フォルダやクラウドストレージに分かりやすく整理して保存します。
書類の種類 | 保存方法の例 | 保存期間 |
---|---|---|
領収書 | 紙またはPDFで保管 | 最長7年 |
契約書 | ファイルに綴じる/スキャンしてデータ化 | 最長7年 |
保存期間にも注意して、税務調査に備えましょう。
税務調査への対応策
引っ越し費用の経費計上は、税務調査で指摘を受けるリスクがある項目です。
按分方法や経費計上の根拠、用途の説明ができるよう準備しておきましょう。
業務使用の割合や事業関連性を明確に示すために、書面で整理し説明できる状態にしておくと安心です。
例として、次のような点が調査で確認されることがあります。
- 明確な按分根拠と説明書類の用意
- 経費に含めた費用の内訳と支払先の証明
- 事業利用部分の妥当性
不明点があれば税理士などの専門家に相談するのもおすすめです。
会計ソフト入力上の注意
会計ソフトでの入力時は、按分後の金額だけを経費として記帳し、個人利用分は「事業主貸」など適切な勘定科目を選びます。
勘定科目としては「地代家賃」や「荷造運賃」など、引っ越しの内容に合ったものを選びましょう。
領収書や契約書とソフト内のデータが一致しているか確認することも大切です。
入力と実際の支払い内容にズレが生じていないか、こまめにチェックしましょう。
会計ソフトのメモ欄などに、按分理由や内容を簡単に記録しておくと後々の説明がしやすくなります。
個人事業主の引っ越し費用の経費処理を納得して進めるために

これまで個人事業主の引っ越しにかかる費用について、経費として計上できるケースや注意点を具体的に見てきました。
正しく経費処理を行うことで、節税だけでなく、健全な事業運営にもつながります。
経費として認められる範囲や、プライベートと事業の境目に悩むこともあるかもしれませんが、「事業のための支出」と説明できるかをひとつの基準に考えてみてください。
また、実際に計上する際には領収書や明細の保管、記帳方法にも気を配りましょう。
小さな疑問が生じた時は、税理士などの専門家に相談することで、後々のトラブルを防ぐことができます。
自信を持って経費処理を進めるために、今回ご紹介したポイントをぜひ実践してみてください。